おまけ|講座の始めの言葉にかえて
ジョブスさんのスタンフォード大の卒業式に寄せたスピーチを動画サイトで見ました。若い人に送る言葉がそのまま、わたしの魂をじんじん揺らしました。
もしも自分が大学を中退してカリグラフィーの授業をもぐりで受けていなければ、マックは美しい複数のフォントや文字間を調整する機能というものを持たなかったでしょう。
(ウィンドウズはマックのまねなので、どのパソコンも美しいフォントをもたなかったでしょう 笑)
ここでカリグラフィーというものをご紹介。
(ここから話すことは小林章というフォントデザイナーの書いた「欧文書体 その背景と使い方」からいいところと画像を抜粋しました。
今日の話はちょっとよねふうに味付けしてありますが、PP.12~13に書いてあることです。興味のある人は面白い本なので読んでみてください。)
西洋の文字はもともと、石碑の碑文の文字が形のもとになっています。この石碑はいきなり石にフリーハンドでがつがつ彫られるわけでなく、最初は平筆で下書きされたそうなのです。輪郭線を平筆でそーっと描くのではありません。
平筆の向きを1方向に決めてささーっと動かすと、線の太さを測る必要もなく、一定の太さに保った線が素早く描けます。
線の先端を水平にすると描きづらく、角度をわずかに傾けると動かしやすいのです。
Oを描くときは、ボールペンで描くときみたいにくるっと一周一筆では描きません。
筆やペンにインクをつけているときは、左から右、上から下、という方向が断然動かしやすいのです。
逆に動かすとペンなら紙にペンがひっかかり、筆なら、毛が毛羽だってシャープでスムーズな線が描けません。
一筆だとどうしても上に動かす部分ができてしまうので、2つのパーツに分けて描きます。
2回に分けてかいたOは左上と右下の線の太さが薄くなっています。
これが「オールドスタイル」といわれるフォントのOの抑揚です。
Sも3回に分けて書くそうです。
たぶん、スティーブ・ジョブスさんが大学を中退して、もぐりで聞いたカリグラフィーの授業でも、こんなことを学んだんじゃないかとわたしは思いました。
スティーブのことだから、フォントの美しさの秘密を発見して、じっさい手も動かしてみたんじゃないでしょうか。
手の力が自然に形に移されている、ぬくもりある文字デザインの美しさに、心を打たれたはずです。
スティーブは1年でリード大学を中退して、行く場所がなくて、友人の部屋に居候して、正規の学生のときは取れなかった課目を心が赴くままに聞いたという時期があるそうです。
そのときにカリグラフィーの授業を聞いたのだけど、そのとき初めて、書体にセリフ書体やサンセリフ書体があり、文字に応じて字間を調節する技術があること、何がすばらしい書体を作るのか?ということを知ったそうです。
そのルールには美しさと歴史があって、若者だったスティーブは科学では説明できない芸術的な繊細さに魅了されました。
そのときは何の役に立つか想像すらしなかったけど、10年経って、マックを開発したときに、そのときに学んだすべてをマックに取り入れたというくだりが演説に出てきます。
なんか、すばらしいエピソードだなあ。
10年経って振り返ってみると、点と点はこうつながっていたのだ、と、とても明快なのだけど、10年前の時点では先を読んで点を打つことはできない。振り返ってのみ、点をつなげることができる。
今は「この点は未来でつながるのだ」と信じないといけない。
ハートと直感に従う勇気を持て。ハートと直感は不思議と、あなたがどうなりたいのかをすでに知っている。
かっこいいなあ。寄り道だらけで無駄のために生きているともいえる、よねみたいな人間にはとても勇気がでる励まし!
演説はもっと長くつながるのですが、じつは、このくだり、デザインの工程も同じなんではないかと、よねは思いまして、今日はみなさんに紹介しています。
素敵だ、とかハートが揺れるいろんな美しいものを集めて、
必要なところを切り取って、
人の役に立つ新しいものを組み立てる。
(「人の役に立つ」というところが、ただの芸術と違う点だとよねは考えています)
仕事に満足するには、自分が心からすばらしいと思う仕事をすること。
すばらしいと思う仕事をするには、それを愛すること。
だから仕事は妥協しないで探し続けなさい。
他人の人生を生きて無駄に時間を使うな。
ハートと直感に従う勇気を持て。
言うのは簡単だけど、実行するにはものすごい力と時間がかかるよね。それには、勇気を出すしかない。それと、デザインの力をつけるしかない。
今日からから後期の講座が始ました。ジョブスさんの魂の遺伝子を胸に、みなさんとグラフィックデザインを勉強しようと思います。
投稿者 yone : 2011年10月10日 13:03