製本工房リーブル
一億前後賞あわせて3000万円!って壁におおきく書いてはってある、たからくじ売り場です。おばさんが撒くごちそうにすずめ大喜び。大にぎわい。このかたを「すいどうばしのしらゆき姫」と名付けたい。
大学のグラフィックデザインの演習授業が佳境を迎えた。わたしの受け持ちのクラスの学生は全員、本のデザインが最終の作品の課題です。なんと、学生はほんとうに本物の本を作る。手製本で。
その材料を調達に水道橋へ行った。後楽園のお向かい、白山通り沿いに「製本工房リーブル」っていう製本材料店がある。
ここは、製本教室も運営していて、よねはここで製本を覚えた。まだ、会社を辞めたばかりで学校の先生もなっていなかったころ、週3か4のわりで、通い詰めた。
その頃は「製本職人」に憧れてた。やみくもに手を動かしているばかりで「食べていく」っていう意味がちゃんとよくわかってなかった。
1冊の本を作るのには、設計して材料を集めて、どんなにテキパキ動いて失敗なく進んだとしても、2日か3日はかかる。本の単価って1000円ぐらいのもの。これを2万円とかで買う人はたまにしかいない。業としてはなかなかなりたたない。職人道をあきらめたわけではないが、きちんと収入の道がたつまで、製本は「娯楽」として長くゆっくりおつきあいしよう、と考えを変えた。
現在は、学生の作品が仕上がる毎年この季節と、特別な本の注文があったとき、年に数回、不足した材料を調達するために足を向けるだけになっている。
製本の師匠の岡野先生に新年のあいさつをした。
曇りでものすごい寒さ。エレベーターを降りてひさびさにリーブルの階に降りてみると、チューリップとムスカリ、プリムラなんかの鉢植えが看板の周りに飾られて、かわいかった。売店の橋村さんの心遣いだろうな。
なん十年も変わっていない古い工房、大好きな場所なんだが、いつまでこのままでいてくれるかしら?
よねがゆったり、この工房で本をかがれる日はいつくるのか?
がんばって仕事して、早くここに戻って来よう。
投稿者 midori : 11:41 am | コメント (0)
手製本を教えてみた
デザインを教えている専門学校の一年生に、「マイバイブル」という16ページものの本を作らせた。InDesignというレイアウトソフトの教材。100%よねオリジナルの教材だ。
「マイバイブル」の内容は、わたしが日々心に繰り返している、好きな言葉を16ページにまとめた本。宮沢賢治の「雨にも負けず」なんかも収録されている。詩集のようなレイアウトにしたのを生徒にサンプルで配布して、まずはそのとおりに作らせた後、
「これは先生のマイバイブルだから、みんなは自分の好きなことばに変えて、一冊提出。イラストを加えたり、レイアウトや判型を変えたりは自由」と言って、レイアウトもデザインも生徒に任せた。
InDesignというソフトは面付けができない。1ページから16ページまで、順に出力することしかできないので、「袋とじ」で本を作る方法を考えた。冬休みに入る前に、A4の紙に出力したのを二つ折りにしたのを平綴じにして、周りを裁ち、平背の本にして仕立てるところをお料理番組みたいに、教室でみんなの前でやって見せた。
冬休みが明けた。生徒たちは、好きな歌の歌詞なんかに、自分のイラストをつけたりして、けっこういい中身を作ってきている。手書きでまんがを書くがんこなアナログ派の子にも、Photoshopで読み込んで加工して、IllustratorかInDesignに貼付けてレイアウトする方法をしっかり教えてある。1年前とは見違えるようなものをみんな作っている。
アウトプットのちゃんとしたお手本があれば、きっとプロでない人でもいい本が作れる。そう確信した。
1月の授業は3回あったのだけど、生徒の作品の講評会と個別のだめだしのほかにもう一つ、「製本」をかませた。
いちばん早く完成に近づいていた子の本を取り上げて、みんなの目の前で豆本に仕立ててみせた。
こどもたちは、目の前で友だちの本がみるみるできて、びっくりしていた。それで、みんな火がついたみたいに「自分の一冊」を作りだした。自分の本を持ちたくて。
今年の終了制作は「自分の本」。わたしの授業はテストがないかわり、実物提出。来週が提出締め切り。すごく楽しみ。
たくさんの部数を出版する本もあるけど、個人が自分の本を持っていてもいいんじゃないか、という考えは変わらない。
「パブリッシュ」という言葉がインターネットでものすごく個人に近づいたように、いまや、印刷も本も個人レベルに降りてきている。個人のための製本もりっぱにカルチャーの仲間入りをする資格があるなきっと。
今日でこの学校の授業は終了。正直いってほっとしていたのだが、2月に製本のオプション授業を依頼された。
投稿者 midori : 11:28 pm | コメント (0)
製本の仲間
(↑猫の豆本を作ろうと思って、”世界の猫切手”に目を付けた。すごいかわいいのだが、ものすごい高価なものとなった。涙)
製本工房リーブルに来ている作家さんたちを誘って飲みに出た。
酔っぱらった勢いで、東アジア手製本家ソサイエティー(ATS)という会を作る。
今のところメンバーは6人。なぜ東アジアかというと、きっと近い将来、日本以外からもメンバーになりたい人が現れるに違いない、という、酔っぱらい的見地から。酔った勢いで一人一冊ずつ、自分が近々手装丁しようとしている本の名をあげた。
ATSの課題本のリスト。
1・山羊の歌/中原中也
2・第八森の子どもたち/エルス・ペルフロム
3・人間失格/太宰治
4・薔薇の名前/ウンベルト・エーコ
5・機関車先生/伊集院静
6・異邦人/カミュ
書名と作家名が合えば、文庫本でも新書版でもなんでも可、製本もルリユールでもくるみ製本でもなんでも可ということにして、同じ本をそれぞれのデザインで作ってみる。6人が6冊(薔薇の名前は上下組なので7冊かも)作ると36点のライブラリーになる。
それが集まったらいつか、手製本の楽しさを人々に広げる展覧会しよう。そんな夢まで決まった。来年か再来年をお楽しみに!
南風堂に、すばらしい目標ができる。仲間がいるっていいなあ。ビールってすばらしい。あ、我も!と思われる方、どうぞご参加ください!お待ちしております。
投稿者 midori : 04:19 pm | コメント (0)
ばらばらのページ修復中
今、進行中の製本の仕事どす。カメラマンさんが、お姉さんの結婚式のもようを写真に撮ったものを本に綴じてプレゼントしたものの修復。1ページ1ページは写真を印画紙にご自分で焼いたものを両面テープで張り合わせたもの。すごく丁寧な仕事。
背とのどの部分をセロハンの両面テープで綴じていたため、30年の歳月でばらばらになった。セロハンテープは接着力が時とともにゼロになり、糊が紙に染み込んで茶色く酸化する。
両面テープ部分は問題ないのだが、セロテープの糊の跡は残念ながら、一般人が入手できる範囲のシンナーやアルコール類では絶対に落ちない。紙の修復専門家に問い合わせたところ、染み抜きの価格は10センチ2000円。ですから、みなさん、本が壊れてもセロテープでぜったいに止めないでください。紙にとって、セロテープは天敵です!
いったん、テープを全部剥がして本を壊し、紙の状態までもどす。ページののどの部分に、別の紙を足継ぎする。幅1センチくらいの「枕」という、ページを束ねる支えの厚紙を入れる×31ページ分。綴じ直してカバーをつける。
修復・修理の仕事は、手をかけようと思えば際限ない。どこまで新しくしたいか、あと何年もたせたいか、お客さんの要望をよく伺って、中身を傷つけないように注意深く進めます。
張り合わされた印画紙のページを開いてテープを剥がし、糊を入れ、のどに足継ぎをしたところ↓
投稿者 midori : 11:32 am | コメント (0)
ダイエット図書館
並んで歩いていた製本教室のあちゃんが気がついた。
「だいえっととしょかん」。National Diet library。ほんとに看板にそう書いてあるんだから。
ダイエットの文献ばかりを集めた図書館では、決してない。貸し出しの係の人やレファレンスのおねいさんが全員ダイエット中というのでもない。医者からダイエットを勧められた人のみが利用できる、というわけでもない。
国会図書館に行ったのだ。
製本教室に、秦先生という、古い書物の紙を修復する仕事をする方が工芸製本を学びに来ていて、その方のおかげで、よねたち、製本を学ぶ人たちは、国会図書館の修復室を見学できることになったんである!
ページが酸化しちゃってぱらぱらになった本の劣化をどう食い止めて保存するか、とか、背の糊がばきばきになってページがほろほろ落ちじはじめた無線綴じの本をどう修復しているか、とか、江戸時代や明治時代の貴重な書簡を裏打ちしている現場とか、虫食いを和紙のくいさきで埋めている人の仕事机とかを見せていただいて、ほーんとためになった。
最大の発見は、ふだんよねがしている製本や修理の方法は、国会図書館のそれとほとんど違わらない、ということであった。
国会図書館は「貴重な資料を後世に残すための修復だから、なるべく、オリジナルと同じに仕上げる」。そこだけがよねたちとは大きな違いだ。
表紙のカバーの皮やページの紙は、もとのものと同じ素材がないときは、材料を染めて、できるだけもとの状態に近づけるといってた。どこまで直すかというと、閲覧者が見られる状態まで。
閉じるどころでなく粉砕しちゃった本ってのもあるわけで、そういうのは、中性紙でつくった保存ラッパーというファイルとボックスに保存するんだって。
かがり綴じができる本というのは紙が丈夫なものに限られている。オーバーソーイング(機械で縫う)というのと、背に溝をカットして、そこを芯にかがるクリットソーイングというのの見本を見せていただいた。
あと、和本の人はほとんど木工ボンドは使ってない、といってた。ご自分でちょうどいい具合に練った、ちょうふのりと ぎんじょうふのり。よごれたページを拭くのにはエタノールを使う。
修復はきりない仕事。虫が食べた和本なんか、まるでレースペーパーのようなんである。それでも和紙というのは強くて、こなごなにならずに四角い姿を留めている、一日に1ページか、2ページ進めばいい方。若いお嬢さんが、エプロンをかけて、足を踏ん張らせて水張りしていらした。根気も体力もいる仕事だなあ。かつては憧れたが、何年もそれだけ、なんて、とてもよねには我慢できないよ。
製本工房の仲間は「どうしたら、ここで働けるんだ?」ということに、興味津々だった。「なんか気がついたら、ここにいた」という人が多いみたいだった。みんな、働いているうちに、貴重な技を覚えて、そしてそれで人の役に立っていく。
好きであらかじめ修復を習ったとか、製本家を目指して修行した、というような人はいない。仕事で自然と技が身に付いた人たちにとっては、好きでで虫食いついだり、しみと格闘しているわたしたちのほうが、よっぽど変わってみえるかも。
国会図書館の直す本にはきりがない。しかも、一点一点、価値を見極めて、人の手で直して行く他はないのである。
修復待ちの本が人類がある限り終わらなさそうに積まれている。とてつもないワークをし続けていらっしゃる方がいるのだなあと思う。
投稿者 midori : 11:54 pm | コメント (0)
たいせつな本の修理
読者から、「図案の手帖」の修理前の状態を見たい、というリクエストをいただいたので、ぼろぼろ時代の写真を公開。
こんな状態の本を装丁しなおしました。
今回は中のページまでばらして破れた紙も継いでいるので修理代は2万円頂戴いたしました。それと材料費と送料の実費。壊れた表紙の作り直しだけですと。半分ですみます。
投稿者 midori : 10:47 am | コメント (0)
図案の手帖2
以前、修復の模様をお伝えした「図案の手帳」、納品が終わりました。
見返し、表紙のイラストなど。残せる所は全部いかして、三方も断たずに古いところを残しました。
ソフトビニールの装丁が紫の布でくるんだ特製本に変わったけど、これなら、あと100年使っても壊れません。のどまでしっかり開きます。
話はかわって、なんか最近、小さい虫がすごく多い。明るい色の服を来て外を歩くと、なんだか黒い点がいっぱい付く。。なんだろうと思って見ると、小さい羽虫。モニターにも現在2匹貼り付いているんだけど、みなさんのうちのご近所は、どう?
投稿者 midori : 11:34 pm | コメント (0)
本を作る
修復のための作業の続きの写真です。このようなばらばら状態になるまで、本をむきます。右のページの小束一つ一つは左の写真のような4枚の紙が一組に二つ折りになったもので、この一束一束を「折丁」と呼びます。一折丁は4枚の紙からなっていることが多い。本のページにすると16ページ。
文章教室の仲間やクリエーターの間で「本を作る」といえば、内容を執筆することにほかならない。「本を作る」話を友だちに話すと、bookbindingを100%手で行うということが、なかなか理解されないことが多い。製本の国で「本を作る」とは、内容の編集のことではなく、本の外側を作る作業のことをいう。
本の歴史が長ーいヨーロッパでは、製本人口はとても多い。日本でもこれから退職後のおっさんの格好の趣味の一分野として盛んになっていくのではないかと、よねはにらんでいる。
よねが行っている「製本工房リーブル」では、ぼっろぼろの古い本をアトリエにもってきて、どの生徒にもわりと始めのうちに時間かけてよみがえらせる練習をさせる。古い紙を束ね直して、綴り直して磨いて……。気の遠くなるような工程を経て本を作ってる。地味な作業の繰り返しだが、すごーく贅沢な趣味だ。
手作り製本をラーメンに例えると、7〜800円くらいですぐに食べられるものを、自分の台所で正統にいい味出して作ろうと挑むようなものだ。鍋を探して鶏ガラと野菜をえらんでスープを取って、何時間もかけてラーメンを作る以上のまわりくどさだと思う。
投稿者 midori : 08:07 am | コメント (0)
さて、本の修復とは、果てしない作業です。
写真のように、表紙を外した本の折丁(二つ折になった紙の一束一束の)と折丁をつないでいる糸を切る。
一枚一枚の紙の状態にもどしていくわけです。
折り目のところにこびりついた、かぴかぴに乾いてくっついている糊は、ナイフで地の紙を傷つけないように削ってはがしていく。
途中、大きく破損したページがあれば、和紙で穴や切れ目を貼って修復していく。虫とか、お菓子のかけらとか、消しゴムのかすとか、ページの間にはさまったいろんなものも、きれいにこそげ落としていく。しみはしかたないので放っておくけど。、修復家のなかにはシミを一つ一つ抜いていく技術をお持ちの方もいるそうです。
今日中に終わらせよう、なんて焦ったらだめ。びりりとぺーじが破れる。細かくて果てしない作業だけども、集中するとけっこうおもしろい。
この本、のばら社の「図案の手帖」は、とてもポピュラーなイラスト集だったらしく、よねが作業する手元を覗き込んで「あ、懐かしい、この本、うちにもある!」とおっしゃる方がけっこういた。