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ダイエット図書館

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並んで歩いていた製本教室のあちゃんが気がついた。
「だいえっととしょかん」。National Diet library。ほんとに看板にそう書いてあるんだから。
ダイエットの文献ばかりを集めた図書館では、決してない。貸し出しの係の人やレファレンスのおねいさんが全員ダイエット中というのでもない。医者からダイエットを勧められた人のみが利用できる、というわけでもない。

国会図書館に行ったのだ。
製本教室に、秦先生という、古い書物の紙を修復する仕事をする方が工芸製本を学びに来ていて、その方のおかげで、よねたち、製本を学ぶ人たちは、国会図書館の修復室を見学できることになったんである!

ページが酸化しちゃってぱらぱらになった本の劣化をどう食い止めて保存するか、とか、背の糊がばきばきになってページがほろほろ落ちじはじめた無線綴じの本をどう修復しているか、とか、江戸時代や明治時代の貴重な書簡を裏打ちしている現場とか、虫食いを和紙のくいさきで埋めている人の仕事机とかを見せていただいて、ほーんとためになった。

最大の発見は、ふだんよねがしている製本や修理の方法は、国会図書館のそれとほとんど違わらない、ということであった。
国会図書館は「貴重な資料を後世に残すための修復だから、なるべく、オリジナルと同じに仕上げる」。そこだけがよねたちとは大きな違いだ。
表紙のカバーの皮やページの紙は、もとのものと同じ素材がないときは、材料を染めて、できるだけもとの状態に近づけるといってた。どこまで直すかというと、閲覧者が見られる状態まで。
閉じるどころでなく粉砕しちゃった本ってのもあるわけで、そういうのは、中性紙でつくった保存ラッパーというファイルとボックスに保存するんだって。
かがり綴じができる本というのは紙が丈夫なものに限られている。オーバーソーイング(機械で縫う)というのと、背に溝をカットして、そこを芯にかがるクリットソーイングというのの見本を見せていただいた。
あと、和本の人はほとんど木工ボンドは使ってない、といってた。ご自分でちょうどいい具合に練った、ちょうふのりと ぎんじょうふのり。よごれたページを拭くのにはエタノールを使う。

修復はきりない仕事。虫が食べた和本なんか、まるでレースペーパーのようなんである。それでも和紙というのは強くて、こなごなにならずに四角い姿を留めている、一日に1ページか、2ページ進めばいい方。若いお嬢さんが、エプロンをかけて、足を踏ん張らせて水張りしていらした。根気も体力もいる仕事だなあ。かつては憧れたが、何年もそれだけ、なんて、とてもよねには我慢できないよ。
製本工房の仲間は「どうしたら、ここで働けるんだ?」ということに、興味津々だった。「なんか気がついたら、ここにいた」という人が多いみたいだった。みんな、働いているうちに、貴重な技を覚えて、そしてそれで人の役に立っていく。
好きであらかじめ修復を習ったとか、製本家を目指して修行した、というような人はいない。仕事で自然と技が身に付いた人たちにとっては、好きでで虫食いついだり、しみと格闘しているわたしたちのほうが、よっぽど変わってみえるかも。
国会図書館の直す本にはきりがない。しかも、一点一点、価値を見極めて、人の手で直して行く他はないのである。
修復待ちの本が人類がある限り終わらなさそうに積まれている。とてつもないワークをし続けていらっしゃる方がいるのだなあと思う。