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アンチ・ダンシャリヤン(片付け大作戦2)
台風が来てからずっと風が強い。いろんな雲が生まれて去っていく。空はいちばん身近な大自然。あたりまえの色に癒される。
会社勤め時代に谷山さん(仮名)という先輩の隣の席だったことがある。
谷山さんは当時の社長とじきじきに、会社のいろんな重要事項を運営していて、ほかの社員とはがっつり距離があった。管理職からも恐れられていたと思う。よねの前任者は谷山さんに徹底的にいじめられたという話だった。
「谷山さんには気をつけなさいよ」
他の先輩から忠告を受けたこともある。谷山さんの隣の席になることが決定して「うまくやっていけるかな」と心配だった。しかしなぜか、谷山さんはよねに対して、「隣の先輩以上」、「肉親以上」といってもいいくらい、気を遣ってくださったのであった。
例えば、時間にルーズだったよねのタイムカードを預かってくださってて、毎朝、遅刻にならないように、しかし、矛盾しないような刻を選んで、良い時間にぴしっと打刻してくださった。おかげでよねは、毎朝、エレベーターの前でどきどきしたり、非常階段を駆け登ったりしなくても良くなった。よねがお願いしたわけではない。谷山さんから「わたしに預けておきなさいよ」とお申し出があったのだ。いっしょに飲みにいくと、よねが電車を降りる時間を調べておいて、直前にかならず携帯電話を鳴らしてくださるというふうに。親切をしはじめると、とことん親切になる方だった。
よねはダメ社員だった。それに出世欲も政権略奪にたいしての欲も根回しもなく、目の前のデザインに対してだけ頑固だったので、谷山さんにとってはわかりやすい女だったのかもしれない。
またたいそうな「のんべ」で、谷山さんの飲みのお伴も十分こなせた。そのころの谷山さんのがんばりぶりを思うと、多少おばかだったとしても、ダメ社員だったとしても、話が通じる相手が隣の席に来たのは嬉しいことだったのだろうと思われる。
谷山さんは整理整頓がとても上手で、机の周りはいつもぴっちり、きちんとしていた。
毎朝のぞうきんがけの際は、電話の受話器のぐるぐるのコードまで丁寧にのばしながら時間をかけてふいていらした。椅子は製図なんかの道具で消しゴムかすを払うための鳥の翼型の羽でほこりをはらう。ときどきよねの椅子も、製図用鳥の羽で払ってくださった。(毎日ではなかったが、それが「あんたも掃除しなさい」のサインだと受け止めてた)
よねの席の周りには、印刷所から戻ってきた使用済みの版下やら資料やらがいつも積み上がっていた。谷山さんの席の方にまで、荷物が飛び出すことはしばしばあった。しかし、整理整頓がなっていない、ということで苦情を言われたことは一度もなかった。
よねの席の隣はさぞかしストレスだっただろうに。
家を片付けたくて「段捨離」の本を購入した。本に取材されている片付いた家の写真を見たら、谷山さんのお宅を思い出した。
ある日、酔った勢いで谷山さんのマンションに泊まることになった。玄関には一足も靴が出ておらず、ほこり一筋もないぴっかぴかの下駄箱の上に、ちいさなお人形とお花がディスプレイされていた。「家庭画報」のグラビアのように。
玄関だけでなくどこもかしこも整っていた。リビングのテレビの前に座布団が正しく敷いてあり、その上にぬいぐるみが10体ぐらい顔をテレビの方を向けてきちんと背の順に一列に並べてあった。赤ちゃん言葉でお人形に話しかける谷山さんに驚いた。
主人は今日はいないから、と、ふりふりの付いたパジャマと布団を用意してくださった。よねがお風呂を使わせていただいて出てみると、谷山さんはエプロンをしてキッチンでてきぱき雑炊を作ってくださっていた。真夜中の12時過ぎの話である。
大きく表紙に「断捨離」と印刷された本は買ってはみたものの、ちょっと開いただけでザゼツした。見出しだけを飛ばし見。詳しく読むことは脳が拒否。しかし、谷山さんのことが思い出せたので買ってよかったと思う。
過去にも今にも、こだわりばかり、自分大好き、煩悩の固まりのよねである。ダンシャリヤンにはなれない。捨てたくないもので人生あふれている!(そもそも、物には命があると思ってしまうし。)
片付かないのは困る。断捨離以外の掃除の方法を見つけよう。