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月夜のこどもとおまんじゅう
2ヶ月間、緊張の連続だったお茶の水の学校の仕事が明日で終了。週2回、帰宅ルートは、お茶の水から中央線快速でいったん東京駅に出、総武線快速の地下ホームで、ホームライナーをつかまえて乗る。サラリーマンでまだ生徒だった8年前の夏と同じ帰宅タイムスケジュール。
先週の金曜日は久しぶりにゆみこさんとビールをご一緒した。
ゆみこさんはよねが大学を卒業して新卒採用で会社員となった広告制作会社で経理事務をしていた女性。デザイナー一年生、というよりはまるで子どもだったよねが、当時、経済的にも心理的にもいちばんご面倒をかけた恩人である。20年以上が過ぎ、二人が働いていた会社はとっくになくなった。けれど今でも、春夏秋冬と季節が変わる頃に集ってビールを乾杯するお付き合いだ。
銀座の「ライオン」に4時半に集合した。クラッシックなビアホール内は外国人観光客で7割の席が埋まっていた。外国人たちの旅行気分がよねたちにも伝線して、だるさが吹き飛ぶ。マルゲリータピザをつまみにジョッキビールをお代わりした。とっぷり夜になった銀座をぶらぶら散歩して、地下鉄に乗って表参道のライブハウスに移動する。音楽を聴きながらウィスキーの杯を重ね、最後は渋谷道玄坂のいつものビール屋で締めにビールをまたまた乾杯。足かけ6時間、久しぶりにゆっくり楽しく、がっつり酔っぱらった。お酒はいいなあ。
この夜は、こどものころのお月見の思い出の話が特別すてきだった。
お月見の夜、ゆみこさんの田舎には、「月にお供えしたまんじゅうを子供が盗んでいい」という風習があったんだって。
十五夜の晩にはどこの家でも、戸を開けななって、縁側にすすき15本とおだんごではなく、おまんじゅうを供える。このおまんじゅうは店で買うものではなく、各家がいろんな作り方をしていて、いろんな味があったという話である。
月が昇ったころ、こどもたちは、外に出ることをこの夜だけ特別に許される。いろんな家の庭に忍び込み、そおっと各家の縁側に供えられたまんじゅうを盗む。大人は泥棒を心待ちにしているのだが、最初は気がつかないふりをしなくてはならない。小さな手がまんじゅうをつかんだ瞬間に「こらっ!」と叫ぶことになっている。
「こらっ!といわれて、きゃあっ!っと逃げるときが楽しかったのよぉ。おまんじゅうにはこの家のはおいしい、とか、この家のはまずいとか、いろんな味があってね」
こどもみたいな顔でゆみこさんが言うので、よねは、月夜を走り回るゆみこさんをを思い浮かべて笑った。
外に出て空を眺めると、右下が膨らんだ薄ーい三日月が明るく光っていた。ファンタジーの生まれそうな夜。今年の十五夜は15日。雨降りでないといいけど。
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