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ウォルト・ディズニーの遺伝子

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最近納めた横組みの本。共通テーマのイラストを各分野で活躍するアーティストに依頼して書き下ろしていただいた。作家はすごい面々なのだが、オリジナルの原稿を綴じて製本したので世界に一冊。製本はシンプルだけど、贅沢な本。本当の意味での「豪華本」ではないかと自分では思っている。
 ディズニーの話題が続きます。
 2008年の4月15日はTDL(東京ディズニーランド)25回目のお誕生日。明日はばっちり仕事の日がはいっていたが、休みをもらっている。期日指定のチケットもゲットした。久しぶりに舞浜に行く。

 誰とも約束していないし、なーんの予定もたっていない。いきあたりばったり。けど、なんとなく仲間と合流することになってて、どこからともなく世界じゅうから(本当に文字通りそういうことになるに違いない)かつての同僚が集まり、パレードをみんなで一緒に見ることになるのだ。だれが決めた訳でもない。わたしたち、ウォルト・ディズニーの子どもの5年ごとの習慣だ。

 TDLオープンの年、よねは大学1年だった。夏休みにバイトで入り、いくつかの職種を経て、なんと30代の半ばまで、人生のいちばんいい時期、毎週何日かを(別の会社の社員もしていたため)この聖地で過ごした。
 ディズニーでなんの仕事を経てきたかは、ウォルト父さんとの秘密なので詳しくは話せない。けど、TDLから教わった大切なことは、今仕事で悩みを抱えるどの人にもお役に立つと思うので、いろんな人に伝えたい。

 とくに今、貴重だったと思っている教えは「仕事って、役割を演じることだ」という考え。
 TDLでは現在もアルバイトのことを「キャスト」と言っているけど、パレードのダンサーやショーの役者なんかの特別なエンターテイナーだけでなく、普通の仕事も「演ずる」人なのだ、と、最初にしっかり叩き込まれる。
「この場所全体が大きな舞台で、ここで働くのはただの労働ではありません。お客さんを楽しませるためのショーの一部。仕事は役割の一つ。あなたはその役を完璧に演じてください」というもの。ここまでは、いろんな人が本に書いているので、けっこう知られた有名な話だ。よねの言いたいことはもっと深いところにある。

 芝居には魔力がある。演じているうちにほんとうに楽しい気がしてくるのが不思議だった。先輩も上司もにっこにこだと、下だって、機嫌よくなる。上から親切に教えてもらえたことは、自分だって後輩にちゃんと伝えようという気持ちになる。

 おそらくアメリカのディズニーランドでは、日本よりはるかにいろんな人種でいろんな考えの人が職を求めて集まったはずで、だれにでもわかる言葉で、サービス業の本質をわかりやすく伝えなくてはならなかったのだと思う。「ここで働くからには、作業の動作や時間そのものだけでなく、メンタルな部分も含めて契約してもらわなくては困る」ということを伝えようとして、だれかがだれかに言った言葉なんだろう。のちにそのまんまマニュアル化し、TDLがオープンするときに和訳されたのだろうけど、最初にこういう表現で言った人はすばらしい。人の心を持ち上げるちょっとした言葉や、体に感じる時間や空間の操作が、ほんとうの意味での「ディズニーの魔法」だと思う。

 若いときに身につけた魔法はよねの体に染み付いて、今も効いている。学校の先生をしているときは、先生を、セラピストの仕事のときはセラピストを、アシスタントのときはアシスタントをデザイナーのときはデザイナーを「演じている」。

 「お話を混ぜない」「キャラクターを混ぜない」というテクニックは、自分のエゴが不適切な場面で出しゃばりそうになるのを強力に押さえる。
 例えばわたしは、自信のない人と自信たっぷりの人物、両極端の人を場面に応じて完全に切り替えて、複数の職場で働いている。嘘をつくのとは違う。それぞれ、自分の本心からのキャラクターなんだが、職場で求められることと人間関係に応じて自分の顔を意識的にスウィッチしている。自分があやふやな態度でないということは、それぞれの仕事場で、それぞれのお客さんの信頼を得つづけるために、とても大切なことだ。複数の仕事の利潤を混同しないことにも役立っている。

 ウォルト・ディズニー父さんからは、こういった贈り物の他にもいっぱいのものを受け継いだ。明日、久しぶりに故郷の星に帰れるうれしさで、今日はちょっと興奮している。