図書館の本
「モンテ・クリスト伯」の3巻を図書館で借りてきたら、写真のような補修の跡が残っているのを見つけた。この文庫本は昭和49年の発行の活版印刷の本だが、多くの文庫本は昭和40年代にはすでに、かがりとじから、背を裁ち落とす製法に変わった。
一枚一枚ののページはホットメルトという糊で固めて作られているだけだ。新しいうちはいいのだが、こうして20年も30年も先になると背の糊が効かなくなって、ページがぱらぱら抜け落ちる現象が起きてくる。
1、2巻をめくるときもじつは、そろそろ形が崩れてきそうなのをそうーっと読んでたのだが、この巻は痛みが激しい。途中、セロテープを糊の跡がべったり残っているページも出てくる。だれか乱暴な人が借りていたのだろう。4巻は比較的きれいだ。
この本は、ぶちっ、ぶちっと開けられた目打ちの穴に、太い木綿をとおして縫った上を、カバー用のビニールで覆ってある。目打ちの穴を開ける前に引いたボールペンの当たり線と、裏のほうにまわされた糸の固い結び目を見つけて、どんな人がどんな気持ちで直したのか、考えた。
いろんな人の手をへてきた古い物には、いろんな時間が刻み込まれていく。本屋で新品を買って読んでいたら、物語に対する印象はぜんぜん違ったものになっていただろうと思う。